19017人が本棚に入れています
本棚に追加
/570ページ
「お茶なら実は取り寄せたものがあるの。ぜひ、真人さんに飲んで頂きたくて奮発して購入してしまったわ」
「ホホホ……」と母は上品に笑いながら、扇子で口元を隠す。
見合い写真を積み、私に見合いを強要したあの時に使用していた金箔入りの扇子だ。
嫌な思い出しかないものは、嫌な予感しかしない……
手入れされた庭園を歩きながら、私はそんな気分に襲われていた……
******
高柳と婚姻届を書いた客室とは反対にある、社寺仏閣でも使用される畳の部屋で私達は身体を休め、執事が淹れてくれているお茶を待っていた。
鮮やかなイグサの色とほのかに香る畳の匂いは、心身ともに安らぎを与えてくれる。
畳の部屋も悪くないな……と、庭に出て盆栽について熱く語る父と、それをうまく相槌をうつ高柳の背中を見ながら、そんなことを思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!