2人が本棚に入れています
本棚に追加
「………………………………」
その流れに流されるように手首を押さえながら促されるままカウンター席に腰掛けた。
「あっ、メニューはこちらにおまかせ下さい、この店ではその人に会ったメニューをお出しするのが形になってますんで」
いつの間にかカウンター席の反対側に回った村井が笑みを浮かべたまま
「お冷やです。これで少し落ち着いて下さい、水はもちろんの事ながらおかわり自由なんで……」
別に変なものとか入れてないですよ、本当に普通の水ですから安心して飲んでください。少し疑っていたことが読まれたのか笑みを浮かべてどうぞと差し出された。
俺は、差し出された水を無言で飲み干した。
「……あなたの心は、悲しみで満たされていますね」
「えっ?」
伊野部が水を飲み干したのを確認してから村井がこちらの顔をじっと見つめて呟いたのにおもわず聞き返した。
「大事な人がいなくなってしまったんですね……」
「お前……何が言いたい?」
「親友を亡くされましたよね?それも最近に」
伊野部が来店してからずっと浮かべていた笑みが消えて村井から真剣な表情でいきなり告げられた。
「お前なんでそれをお前が知ってんねん!?」
村井の発言に伊野部は感情的になり、机をバンッと叩いて逆上した。
「図星みたいですね」
そんな伊野部の反応に全く動じる様子もなく、また笑みを浮かべる
「もう付き合ってられへんわ……もう帰らせて貰──」
なんとか怒りを抑えようと荒く自分の頭を掻きながら椅子から立ち上がり、店から立ち去ろうと村井に背を向けた瞬間
「心に潜めているその後悔を早く取り除きたいと思った事ありませんか? 伊野部さん」
「……………………………………」
村井からの不意な問い掛けに歩んでいた足が止まり、扉の前でドアノブに手を掛けた状態で立ち尽くす
「自分をどんなに傷付いてもそんなの誰も喜びませんよ? 当然亡くなったあなたの親友も……」
「そんな事お前に……」
ドアノブから手を離し、小さく呟きながら村井の方に向き直すと大股で歩み寄り、村井の胸倉に掴み掛かった。
「お前に言われる筋合いなんかない!!」
「本当にそう思われてます?」
「はぁ?」
「本当は、いつまでも自分の事を憎んでいくのは、みっともないと思っているんじゃないですか?」
「………………………………」
「あれっ? 急に静かになりましたね」
「………………………………」
伊野部は、睨み付けながらもゆっくり胸倉から手を離した。
最初のコメントを投稿しよう!