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「……まぁひとまずお席にどうぞ」
胸ぐらを掴まれて少し乱れた服を直しながら、静かに告げる
「お前……何を企んでんねん?」
沈黙を続けていたがゆっくりと不信感を抱きながら問い掛けるため口を開く
「別に企んでなんかいませんよ、僕はただあなたの事を救いたいだけです」
「俺の事を?」
はい。伊野部の問い掛けに村井は、笑みを浮かべたまま小さく頷いた。
「……………………………………」
「……でも今日は、もう家に戻られた方が良いかもしれないですね、今日だけでも色々とありましたし、あなたの事を混乱させてしまいましたから……なので、帰って一度ゆっくり整理をする時間があった方が宜しいでしょう……」
「……………………………………」
「もし自分をあの頃を取り戻したいという気持ちが少しでもあるんでしたらまた来て下さい、そうしたらまたこの店の扉は開かれますので……」
村井は笑みを少し深めると扉の方に促される
「今日は、色々なご無礼失礼しました」
軽く頭を下げて謝罪をすると伊野部は、別に謝らんでもええ、と声を張ることなく言うと再び扉の方に促される
「……ほんまに帰ってええんやな?」
「はい、またのご来店お待ちしております」
「……じゃあ」
村井の言葉を合図に背を向けて一言だけ言い残すと俺は、今度こそそのまま店を出ていった。
その様子を村井は、微笑みながら無言で眺めていた。
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