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あれは冬の日だった。
ぼんやりと立ちつくしていた六歳の兄。
私は母親にコートを着せられていた。
まだ五歳だったから、詳しいことはよくわからなかった。
けど、母の言う『リコン』は兄や父親ともう会えないという意味だとは理解していた。
でも、私はそんなのは嫌だった。
「どうして、お兄ちゃんは一緒じゃないの?」
せめて兄だけでも一緒なら、まだ安心できると思った。
その頃の私は、兄の後ろをひよこのようについてまわるような子で、兄のいない生活なんて考えられなかったから。
私に無理やり靴を履かせた母親は、素っ気無く答えた。
「もうお父さんとお兄ちゃんじゃなくなるの」
私はその返事では納得できなかった。
「じゃあ、またあとでお兄ちゃんになれる?」
泣きそうになりながら尋ねた言葉に、母親はため息まじりで吐き捨てた。
「無理だってば」
それ以後、母親は何を尋ねても返事をしてくれなくなった。
泣き出した私。
兄が珍しく泣きそうな顔をして、父親がうつむいた。
それが家族だった頃の最後の記憶だ。
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