2.海の絵

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 あれは冬の日だった。  ぼんやりと立ちつくしていた六歳の兄。  私は母親にコートを着せられていた。  まだ五歳だったから、詳しいことはよくわからなかった。  けど、母の言う『リコン』は兄や父親ともう会えないという意味だとは理解していた。  でも、私はそんなのは嫌だった。 「どうして、お兄ちゃんは一緒じゃないの?」  せめて兄だけでも一緒なら、まだ安心できると思った。  その頃の私は、兄の後ろをひよこのようについてまわるような子で、兄のいない生活なんて考えられなかったから。  私に無理やり靴を履かせた母親は、素っ気無く答えた。 「もうお父さんとお兄ちゃんじゃなくなるの」   私はその返事では納得できなかった。 「じゃあ、またあとでお兄ちゃんになれる?」  泣きそうになりながら尋ねた言葉に、母親はため息まじりで吐き捨てた。 「無理だってば」  それ以後、母親は何を尋ねても返事をしてくれなくなった。  泣き出した私。  兄が珍しく泣きそうな顔をして、父親がうつむいた。  それが家族だった頃の最後の記憶だ。
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