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けれど今、目の前に広がる海は、その名を冠した貴石とは似ても似つかない色をしていた。
口に含めば、水が滲みだしそうな色の石に対して、海は岸から吸い寄せた砂が混じり、灰がかった鈍い青色をしている。
まだ湖のほうが、石のイメージに近いんじゃないのかな。
茶が混じる砂の色、雲の灰色。
どちらがまざっても、かろうじて青を保つ海。
砂浜も少ないせいなのか、ここには遊びに来る子供の姿もない。
釣り人もいない。
繰り返し新しい波を作り出す海岸で聞こえるのは、潮騒だけだ。
ここへは何度も来ているはずなのに、こんなに彼らの家に近かったのに、どうして姿を見かけることもなかったんだろう。
私はガードレールに肘をつき、本当に家を見に行くかどうか悩み続けた。
そのうちぼんやりと右足で石を蹴る真似をしたら、本当に石があったらしい。
つま先に小石があたった感触の後、
「いてっ!」
真下の砂浜から非難の声が上がった。
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