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驚いて下をのぞき込んだ。
道は砂浜より二メートルは高い。
高波が来たときのために、そう作ってあるのだろう。真下にはなだらかな砂浜が海へと続いている。
その砂浜の道の下、コンクリートが壁のように切り立っている場所。
私からは死角になる所に、見覚えのある顔があった。
野村光司だ。
左手にはスケッチブック、右手に鉛筆を握っている。
座っている彼の右隣には、ナイロンの鞄と上に広げられた色鉛筆のケースらしき物が見える。
そして私は妙に納得した。
彼がここから海を眺めている分には、出会うことはなかっただろう。
なにせ彼は真下で海を見ているし、こっちは真下をのぞき込もうなんて考えもしなかったのだから。
それにしても石を投げても人に当たるかどうか分からない場所で、会う気のなかった知り合いにおもいきり当たるとは。
「ご、ごめん!」
石を蹴ったのは自分だ。
右手に見える階段を駆け下りて、彼の所まで謝りに行った。
ここで逃げたら不審者丸出しだから、後ろ暗いところもない見知らぬ人間なら、普通に謝るだろうと思ったから。
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