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野村君は、沖の防波堤を作る際に余って隅に積み上げて放置されたのだろう、点在するテトラポットの一つに座っていた。
学校帰りなのか黒い学ランのままだ。
右肩をさすっている動作で、私の蹴った石がそこに当たったとわかる。
と、そこで気づいた。
まずい。私が誰なのか思い出してしまうのでは……。
彼は渋面のまま返事をした。
「真下まで確認しろとは言わないけどさ……まぁいいや」
野村君は特に何も気づかなかったように、手に持った色鉛筆をケースに戻す。
私はほっと胸をなで下ろした。
次いで、絵を描いていたことはわかるけれど、そういうタイプに見えなかったのでつい尋ねてしまった。
「こんなところで絵、描いてたの? 海の色濁ってない?」
灰色混じりの海を描いても、楽しくなさそうなのに。
「別に、見た目どおりにしか描いちゃいけないわけでもないから。何色をつけるかは俺の勝手だし」
「でも、こんな濁った色の海から、どうやったら他のが想像できるの?」
想像力がない私には、無理だ。
それが出来る人は、脳の構造が違うのではないかと思う。
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