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「だいたい、帰り際に絵を描くぐらいなのに、どうして選択授業は美術にしなかったの?」
つい口を滑らせた。
当然ながら尋ね返される。
「同じ学校なのか?」
「私はそっちのこと、時々だけど見たことあるよ」
ということにしておく。
まるっきりの嘘ではない。
プライベートな事情に関わりがある事を黙っているだけだ。
彼は「人の顔覚えるの得意なんだな」とつぶやいた。
一瞬、また歌子のような勘繰りをされるのかと身構えた。
私だって、学校ですれ違う同級生全員の顔を覚えているわけじゃない。
本人に興味がなければ、覚えないのが普通だと思う。
後ろめたいので言い訳のように付け加えた。
「ほら、選択授業でよくすれ違うから」
「てことは、そっちは美術選択してんだ」
彼は興味をひかれたように、少し口の端を上げる。
「で、写生意外は苦手と」
「いいじゃない、別に」
すねて見せると、野村君は「見てみるか?」と閉じていたスケッチブックを開いてみせた。
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