2.海の絵

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 生成の紙には、碧の海が広がっていた。  幼い頃に見た、南の海でしか見られないと思っていた美しい色。  目の前の砂浜には、若布や名前も知らない赤茶けた海藻が点々と漂着しているし、合間には砂に汚れた空き缶やスーパーの袋、どこかの車から外れたホイルキャップ、コンビニ弁当の殻が転がっている。  なのに、絵の中の砂浜は、生成り地をそのまま生かして陰影だけ書き加えただけの、まっさらな砂浜だった。  唯一、少し晴れ間の見える空だけが同じだった。  雲間から差す光を照り返している部分だけ、紙面の海も淡い色を使っている。 「なんていうか、よく描けるね」  私なんて、割り箸が刺さった砂浜を見た瞬間に、筆を投げ出しそうだ。 「自分の見たいものを描くだけだって。わざわざ、綺麗な色の色鉛筆で汚いものを書く必要なんてないだろ」  たしかに。 「でも、よく芸術家なんかはわざと汚い物描こうとするじゃない?  人間の心を表現するとかなんとか。  そんな欝になるような代物描かなくたって……とか思うんだけど」
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