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生成の紙には、碧の海が広がっていた。
幼い頃に見た、南の海でしか見られないと思っていた美しい色。
目の前の砂浜には、若布や名前も知らない赤茶けた海藻が点々と漂着しているし、合間には砂に汚れた空き缶やスーパーの袋、どこかの車から外れたホイルキャップ、コンビニ弁当の殻が転がっている。
なのに、絵の中の砂浜は、生成り地をそのまま生かして陰影だけ書き加えただけの、まっさらな砂浜だった。
唯一、少し晴れ間の見える空だけが同じだった。
雲間から差す光を照り返している部分だけ、紙面の海も淡い色を使っている。
「なんていうか、よく描けるね」
私なんて、割り箸が刺さった砂浜を見た瞬間に、筆を投げ出しそうだ。
「自分の見たいものを描くだけだって。わざわざ、綺麗な色の色鉛筆で汚いものを書く必要なんてないだろ」
たしかに。
「でも、よく芸術家なんかはわざと汚い物描こうとするじゃない?
人間の心を表現するとかなんとか。
そんな欝になるような代物描かなくたって……とか思うんだけど」
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