2.海の絵

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「別に、俺は芸術家になりたいわけじゃないからね」  さらりと野村君は言い切った。  じゃあ何のために学校鞄に道具を入れて、帰り際に絵なんか描いてるんだろう?  てっきり芸術家志望かと思ったのに。  質問しようかと思っている隙に、彼の方から問いかけられた。 「そんな風に思えるなら、自分の好きなもの想像するのは簡単だろ?」 「いやそれがね、他人様のを見るとこのイメージがこびりついちゃって、それと同じようなの描いちゃうのよ」  いつの間にか授業に対するグチを披露していた私は、彼の言葉に眼を見開いた。 「自分の好きなものがわからないってことか」  なんだか胸に刺さる。  自分の好きなもの。  アクアマリンの色は好き。  だけど、どう塗れば自分の気に入るような色や風景になるのか想像がつかない。  白い砂浜はステキだと思う。  だけど、欲張ってあれもこれもと付け足して、素人が南国の広告を書こうとしたような変な絵になるのは目に見えている。  別にそれでも構わないんだろうけれど、でも自分の好きな絵ではないのがわかるから少し悔しい。
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