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「たぶん、想像で書いても、自分の気に入る絵にはならないだろうってのだけはわかる」
拗ねた気分で、彼の近くのテトラポットに腰掛ける。
「ようするに、私って想像力が欠如してんじゃないかなって。
今美術で絵本作れなんていわれてるけど、なにをどうしていいのかさっぱりわかんない。
こう、どこかの童話を真似してみてもさ、結局元ネタそのまま書いているだけになっちゃうし。
想像しようにも、何を主人公に描いたらいいかもわからないし」
ひとしきり私の愚痴をきいていた野村君は、何を思ったか色鉛筆のケースを差し出してきた。
「な、何?」
「貸してやるからさ、それで今日帰ってから海でも描けよ。
俺の絵を真似したってかまわないし、このまま描いてもかまわないし。
ほら、その色鉛筆二十四色入りで三千円もするんだ。こんな高いの使えば、なんとなくいいものが描けそうな気がしてこないか?」
「もしかして、絵の練習しろってこと?」
「描けない」と愚痴ったから、親切にも助言してあげようとしてるのかと思ったが、
「いや、描き友達がいてもいいかと思って」
そう言った野村君は、子供の頃のように笑った。
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