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弟たちの憂鬱
幼い頃から、【女】という化け物に飼われている。
姉がいれば一度は耳にするかもしれない台詞。
「姉ちゃんって羨ましいなぁ」
羨ましい?バカを言うんじゃない。
「帰り何時?」という一言のメールで「飲み物が欲しいのだろう」と察する能力、電話越しの声で機嫌を感じ取るスキル。
少なくとも姉という存在が弟にもたらすメリットはこういう【特に必要のない鎧を身に付けることができる】という点だけかもしれない。
そう、【弟】とは、対姉用に仕立て上げられた家臣に過ぎないのだ。
「コンビニ寄って帰ろうぜ」
渚は俊太の呼びかけに軽く頷くと、冷たいコンクリートの床にスニーカーを投げた。
バスン、と着地したヒョウ柄のハイカットスニーカーは今年の誕生日に姉がくれたものだ。
どこから見つけたのかわからないけれど渚の好みと遠くかけ離れたこいつを、姉がなんとも誇らしげな顔で差し出してきたのは猛暑日の続く九月に入ってすぐだった。
「俺の誕生日は12月だけど」
思わずそう零すと「いや、いいのを見つけたから先にあげとく」と、嫌がるヒロインに偽物の金を差し出すカオナシのようにズイ、とこのスニーカーを差し出したのだ。
「いつ見ても渚のスニーカー、派手だね」
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