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昔からやりたいことを真っ直ぐに突き進み、常にわが道を進む。進学も、将来の夢も、誰にも相談せず、誰にも心配させずに決めた。そうして国立の医学部に進み、今は医者になろうと必死に勉強している。結局俺は、そういう姉ちゃんを一番よく知っていたりするから「じゃぁ夕飯はカレーだな」と言うしかないわけで。
「助動詞を見つけたら仮定法かもしれない、でもifがかいから代わりの表現を探す。」
「和訳は?」
「頭の中でifを足せばいい。」
「赤点とったら、エヴァンのチョコね」と姉ちゃんは付け足す。
「マジかよ!」
「嫌なら勉強。」と、青い蛍光ペンでアンダーラインを引く。根拠はないけど、姉ちゃん曰く「青は覚えやすい色」らしい。姉ちゃんの経験からだと思う。
もしかして、カマキリだったら俺は食われてたかも。
姉ちゃんの方が体がデカくて、力が強くて。で、俺が英語を間違えるたびに一口ずつ食べる、みたいな。
思わず噴き出すと、姉ちゃんは「集中しろ」ともう一度俺の頭に手刀を振り降ろした。
「姉ちゃんってさ、怖いものあんの?」
「貴様の赤点」
「いや、そうじゃなくて!例えばほら、ゴキブリとか」
「は?液体洗剤掛けたら死ぬじゃん」
「幽霊とか」
「見えない」
「高い場所は?」
「平気」
「歯医者とか」
「バカにしてんの?」
「それ全部あんたが怖いものじゃん」と鼻で笑う余裕を見せつけた。
政道の姉ちゃんが苦手な蛇もうちの姉ちゃんは庭に現れた時には金鋏で掴んで近くの野原に逃がしに行ったし、俊太の姉ちゃんが苦手なジェットコースターも昔からケラケラ笑いながら乗っていた。
うちの姉ちゃん、もしかして弱点がないのかもしれん。
今更ながら新事実だ。政道と俊太に教えなければならない。
「ねぇ、早く問題解いてくれない?」
姉ちゃんは指先で問題集をカツカツと叩いた。
ついでに「苦手科目は?」と聞いたら「笑止」の一言。
「好きなものや得意なものは他人に話してもいいけど、弱点になりそうなものは話さないようにしないと生き残れないよ」
この人は何から生き残るつもりだろうか。
いいことを言ったと言わんばかりの姉ちゃんの表情と、この先のわからない問題の羅列に俺はがっくりと肩を落とした。
翌日、政道と俊太にこの話をすると「それって、新発見より再確認じゃね?」と言われた。
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