弟たちの憂鬱

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政道が隣にローファーを降ろしながら笑った。 俊太は自分のスニーカーの踵を踏んだままで「それ、風紀で引っかかるだろ」と呆れたように渚のヒョウ柄を指差す。 「仕方ないだろ、姉ちゃんが履けってうるさいんだから」 「渚の姉ちゃんの趣味ってスゲェよな。」 「今年の流行りを先取りしてたんじゃない?流行ってたでしょ、ヒョウ柄の服装で踊るアレ。」 というと政道は「アッポーペン」と言いながら両手をパン!と叩いた。多分彼はちゃんとその踊りを見たことがないのだろう。俊太がすかさず「ちげぇよ、それじゃあ等価交換じゃねぇか」と正しく踊ってみせた。 12月の熊本は、平年より暖かい日が続いていた。 室内に入れば日差しだけで20℃近くまであがっていたけれどやはり季節は冬である。 急に空気がキンと澄み渡ってきたと思っていたら、あっという間に阿蘇山が白い雪を纏った。もうそんな時期か、と思いながら気付けば渚は誕生日当日を迎えていた。 今朝、姉は家にいなかった。 もっと言えば姉は昨日から家にいなかった。     
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