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青い空。白い雲。あ、キリンだーー
いや、まちがい。イワシだね。
この島に来たときとは、雲の形が変わってる。秋空になっていた。
フェリーが乗り場を遠ざかる。
颯斗くんや海歌ちゃんが、ずっと手をふっていた。
走りだす船上から崖のほうを見ると、そこにも手をふる姿がある。蒼太くんだろう。
「みんな、みんな、元気でねぇー!」
さけんだけど、もう聞こえないかな?
蘭さんは淡白。
「身も心もリフレッシュ。早く次の話、書こ。猛さんも、かーくんも、僕に任せてね。かせいであげるから」
ありがたやぁー。
神さま。仏さま。蘭さんさまぁ。
おがんでいると、崖の上の蒼太くんのとなりに、誰かがならんだ。大人の女の人だ。こっちに向かって手をふってる。
「絢子さんだね」
「ああ。よかったな」
「うん。また遊びに来ようね」
「そうだな」
「来年の夏ね」と、これは蘭さん。
夏の別荘と認識してるらしい。
ちゃっかりしてるよ。
三村くんがクギを刺す。
「おまえら、次は最初から、おれのこと呼べや? 事故ってから呼ぶんは、やめえや?」
「ごめん。ごめん。悪かったよ」
笑ってごまかしてから、話をそらす。
「あっ、それにしてもさあ。猛、まちがってるよ。南さんち、絢子さん一人じゃないよ? おばあちゃんがいるだろ?」
「えッ!」と、三村くんが奇声を発する。
「か、かーくん?」
蘭さんは、うろたえる。
「なに言ってるんですか? おばあさん?」
猛はニカッと白い歯を見せた。
いつもどおりの、いい歯ならび。
「そのこと、いつ言おうかと思ってたんだけどな。かーくん。あそこのうちのばあちゃん、とっくに亡くなってるぞ? 仏間に遺影、かかってたろ?」
ウッ……ウソだ! そんなのウソだぁーッ!
「やめてよね。猛。そうやって、すぐ僕をおどそうとする! だまされないからねぇ!」
「だましてないよ」
「ちがーう。だましてるんだ!」
「かーくんって、意外と見えるーー」
「わあ、わあ、わあッ! 聞こえない。聞こえないー!」
なんにせよ、楽しい夏休みだった。
悲しいこともあったけど。
僕らの夏は、こんなふうにすぎていく。
きっと、これからも、ずっと……。
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