それでも、海の碧み掛かった青さは変わらず美しかった。

9/11
前へ
/23ページ
次へ
「碧依?今、何を考えてる?」 「え?」 自分の名前を呼ばれて驚いた。 いつの間に自分は名前を教えていたのか。意識も絶え絶えになっていたあの時だろうか。 それでも自分は彼の名前を知らない。いや、もしかしたら聞いたのに覚えていないのかもしれない。 それでも、新たに聞くのは良くないような気がした。 名前を知ってしまったなら、彼へのこの想いに蓋をしきれないように思った。 「碧依?」 「あ、ごめん。何でも……ううん。違うわね。……ここに来て良かったって。そう思ってた」 小さく笑う彼女に、彼も笑みを返した。 「もう少し沖まで行ってみないかい?」 碧依の腰よりも高い位置で水面が揺れる。 肌を焼く陽射しに耐えられず彼が潜り、少し離れた位置に飛沫と共に浮上する。 髪を掻き上げた彼に一瞬何かが重なったが、それはあっという間に消え去り、もう何だったのかも分からなかった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

180人が本棚に入れています
本棚に追加