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「碧依?今、何を考えてる?」
「え?」
自分の名前を呼ばれて驚いた。
いつの間に自分は名前を教えていたのか。意識も絶え絶えになっていたあの時だろうか。
それでも自分は彼の名前を知らない。いや、もしかしたら聞いたのに覚えていないのかもしれない。
それでも、新たに聞くのは良くないような気がした。
名前を知ってしまったなら、彼へのこの想いに蓋をしきれないように思った。
「碧依?」
「あ、ごめん。何でも……ううん。違うわね。……ここに来て良かったって。そう思ってた」
小さく笑う彼女に、彼も笑みを返した。
「もう少し沖まで行ってみないかい?」
碧依の腰よりも高い位置で水面が揺れる。
肌を焼く陽射しに耐えられず彼が潜り、少し離れた位置に飛沫と共に浮上する。
髪を掻き上げた彼に一瞬何かが重なったが、それはあっという間に消え去り、もう何だったのかも分からなかった。
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