それでも、海の碧み掛かった青さは変わらず美しかった。

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前日用意しておいた衣服に着替え、乱れた髪を手櫛で整え一つに結ぶ。 化粧は飛行場で。朝食は……。 考えてみるとここに来てから朝食を取っていないことに気付いた。 せっかく口コミ高かったのに……。 後ろ髪引かれながらも、彼に見送られるよりもましと、彼のものより一回り小さいスーツケースを転がし音も立てずにその部屋から出ていった。 彼の寝顔を最後にもう一度見たかったが、その気持ちを押さえ込みながら。 彼の手の、唇の、肌の、自身の中を掻き混ぜる激しいその感触の、その全てを。 そして、彼の甘さを胸に。 元気をもらったから、大丈夫。 また、私は明日から頑張れる。 自分に言い聞かせながら、彼の自分を呼ぶ声にきゅんと胸を締め付けられながら、碧依は会計を済ませ逃げるように送迎用のバスに乗り込むと、隠れるように身を小さくさせたまま、静かに涙を流した。
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