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「まだ、分かんないの?俺の事置いて一人で帰るし、朝起きて君がいなくなっていて驚いたよ」
ほら……やっぱり、勘違い……。
「……え?」
「碧依が俺を置いてさっさと一人で帰ったから、あれから俺はずっと機嫌が悪いんだけど。どうしてくれるの?」
そう言って口角が意地悪く上がる。
どうして気付かなかったんだろう。
あの時過った違和感。
濡れた髪を掻き上げた、あの表情は正に今目の前にいるこの男のそれと何一つ違わない。
「あ……あの、すみませんでした。私、常務と気付かずに……失礼なこと……」
碧依は腰より深く頭を下げた。
何て事をしてしまったのか。
よりによって、直属の上司の更に上司のそのまた上司の……。
怖くて考えたくもないがとにかく雲の上の住人相手に私は何て事を……。
青ざめた彼女は、お辞儀をしたまま彼の顔を見ることも出来なかった。
頭を下げたまま思う。
彼はいつから気付いていたのだろうか。
私の名は自分の口から伝えたものなのか、それとも彼はその前から既に知っていたのだろうか。その疑問の答えが知りたかった。
もし後者であったなら……。
一瞬浮かんだ言葉を慌てて取り消した。
そんなわけない。ただ、都合の良い女であっただけ。次期副社長候補ということは、いずれは社長の座へと上り詰める人。
身分違いにも程がある。
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