それでも、海の碧み掛かった青さは変わらず美しかった。

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月が昇り掛けの海に目をやる。 「……また会ったね」 聞き覚えのある声に振り向いた。 昼間の、彼だった。 「……先程は、どうも」 遠慮がちに僅かに会釈をする彼。 「……あなたもここに?」 プライベートビーチのここに居るということは彼も宿泊客なのだろうと、そう思った。 「まぁ、ね」 思わせ振りにそう答える男。 「あなたも……一人?」 先程の答えとなったかは分からないが、敢えて『あなたも』と聞いた。 それに彼も気付いたのだろう。 「ええ、僕も一人です……良かったら、美味しいお酒でもご一緒にいかがですか?」 その笑顔の優しさに、今は深い意味など求めずに癒されたい。 「……お酒だけ?……ですか?」 普段は知らない男の誘いになど絶対に応じない。それでも彼の声に酔い始めていたのは、ここが知らない土地であったからかもしれない。ここにいる誰もが自分の名も知らずに呼んでくれさえもせず、余計に孤独感が増してしまう。 もう二度と会うこともない、だからこそ……。今だけでも、誰かにすがり付きたかった。 この男に思う存分甘えてみたい。 別れたばかりの元恋人以外の異性との行為に、自分の心は耐えることが出来るのだろうか。 差し出されたその手に、不安以上に期待感で高揚しながら指先をそっと触れる。 その指を彼は自分の唇まで持っていくと触れる程度のキスをした。 「……ご希望とあらば」 唇は離れないまま、黒目だけが彼女を見詰める。 その目付きにどきりとする。 先程の……昼間の怒りに満たされていたときのように鋭い眼光。 彼女は急に怖じ気付いた。 慌てて腕を引っ込めようとするが、彼がそれを許さなかった。 「あなたの傷が癒えるように、精一杯努めましょう」 漸く唇が離れてはくれたが、だからといって彼女の手はまだ解放されていなかった。 怯えた表情の彼女に満足し、薄い唇をを歪ませながらニヤリと彼が笑った。
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