それでも、海の碧み掛かった青さは変わらず美しかった。

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「おはよう。目覚めたかい?」 「おはようございま……」 言い掛けた口を彼が塞ぐ。 そして二人は再び、昨夜の続きのように絡み合う。どちらが自分の手で相手の唇かも分からないほどに互いが求め合った。 せっかくの観光地で何やってるだろうと呆れたのは最初のほんの僅かな瞬間でしかなかった。 漸くその行為が止んだのは互いが満足したからではなく、どうしても空腹に耐えられなくなった彼が笑ったからだった。 ルームサービスのサンドイッチを、気だるさが残る中ベッドに横たわる彼女の唇に彼が押し当てた。 クスリと笑って彼女の口が開く。 その姿を見て満足そうに彼はまたにやりと笑う。 「もう一度……海が見たい」 彼女の提案で漸くその日初めての外出を決めたのは、まだじりじりと太陽の熱が刺さる時間であった。 「水着、ある?せっかくだから泳がない?」 「一人旅だったから、持ってきていないわ」 「そう。それなら……」 彼の提案でセレクトショップへと向かう。 「俺に選ばせて」 別れた恋人は一緒に買い物に行くことをとても嫌がっていた。だから、買い物はいつも一人だった。試着室前で待つ男性を見るたびに心の中のどこかで羨ましいと思っていた。 自分にも待ってくれる相手が居る、この喜び。 例えそれがこの場限りだとしても、彼女の心はときめいていた。 「次はこの水着ね」 そう言って選ぶのは彼女ではなく彼の方だった。 着せ替え人形のように次から次へと忙しく着替える。新しい水着を身に付けるたびに彼に見せることが恥ずかしい。 それを口にしたら笑われるだろうか。 『もっといやらしい姿を知っているのに?』と。
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