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01
・・・
ヴォォォァン、と腹にまで響くような重低音が座面から伝わってくる。
ツザキ社製、Xinobi《シノビ》 NX-6L。
排気量にして600CCを越える大型バイクのエンジン音だ。実のところ、
上から現場に駆けつける足として持たされただけで、さして詳しくもない。
だがこの身体に伝わる振動と、風を切って走る感触は、好きだった。
エッジの効いた猛禽のようなフォルムも、悪くない。
赤く塗られたガソリンタンクに肘をつき、ヘルメットに仕込まれた無線機の声に
耳を傾ける。
「――雷久保氏から連絡があったのは三日前だ。……これまで頑なに自身の所在を
明かそうとしなかった氏だが、どうやら"フェイスダウン"に嗅ぎつけられたようだ。
現在は身を隠し、我々に保護を求めている」
耳元のスピーカーから凛とした声が流れてくる。その女性の声は飾り気のない
話し方によく合い、心地よい。
が、その心地よさに耳を奪われている場合でもない。事態は深刻だった。
「……十年以上もの間"CET"の庇護もなく隠れ続けていた博士が、俺たちと
直接コンタクトを取りたがるとは。よほど切迫しているということですか、本部長?」
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