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女史には似つかわしくない歯切れの悪い言葉に、嫌な予感がした。
「既に、博士は市内に潜入している。
奴らが緋衣路市を包囲する前に入れたのは幸運だが、
こうなっては単独で市外に脱出させる方が、危険度が高い」
「……合流して、強行突破せよ、と……」
ヘルメットをかぶっていなければ眉間を揉みしだいているところだ。
CETには、戦闘員は事実上俺一人しかいない。
故あって俺はフェイスと戦う力を持つが、普通の人間はフェイスに対抗できない。
振りぬく拳は音速を超え、破壊的な衝撃波を撒き散らして鋼を貫く。
駆ける脚はアスファルトを砕き、一秒で数十mを走り抜ける。
まるで人型の戦車のごとき戦闘力を誇るフェイスは、
とてもではないが人の手に負えない。
その動きを見切ることも、そもそも人間が持てる火器ではフェイスの装甲に
痛手を与えることもできない。
考えうる最高の装備と訓練を施した兵士でも、奴らの前では脆い案山子だ。
「……ぼやきたくなる気持ちはわかる。だが、いまだにフェイスに対抗できる装備の
開発は目処が立っていない。
――"アルカー・エンガ"、おまえ以外は」
「独り身は辛いですね」
ついつい皮肉を返してしまう。女史の困った気配が無線機の向こうから漂い、
少し反省する。
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