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おそらくは向こうで頭を抱えているだろう女史の姿が思い浮かぶ。彼女に言ったとて、
仕方のないことだとわかっている。
だが、流石に自分も限界が見え始めている。
フェイスたちも、少しずつではあるがこちらの動きについてきはじめている。
そのうえ数においては圧倒的にフェイスが上回っているのだ。全方位から迫る敵意に、
心も疲弊している。
せめて一人でも、背中を預けられる相手がいれば……
「――いえ、ないものねだりをしました。今はそんなことを言っている場合ではない。
雷久保博士との合流場所は?」
「向こうが警戒してまだ教えてくれてはいない。合流一時間前に無線連絡を行うから、
電源を入れたままおまえは周辺地理の把握に努めてくれ」
「了解」
みじかく返答をきりあげ、バイクのハンドルを引き寄せ前輪をめぐらす。
と、無線機からいままでより少し柔らかい声が届く。
「無理をさせる立場でこういうのも気が引けるが――無理はするなよ、火之夜」
「……ええ」
その言葉に、少し救われる。
相手の無線が切れたのを確認すると、俺――赤城火之夜は一度ヘルメットを脱ぎ、
蒸れた赤髪を手で拭う。再びヘルメットを被り、クラッチをきってアクセルをふかす。
クラッチレバーをはなした途端、馬がいななくように前輪が高くもちあがり、
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