欲望の街角

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 夕闇が支配する街並み。俺はいつも通り、コンビニでバイトだ。 「なあシュウ、おいらに大根おごってくれよ」  その店内、太助がおでんの入った器を見つめて言った。 「何故に俺様が、おめーに大根をおごらなきゃならんのだ」 「こう寒いと、あったかい物が食いたいよ」 「だったら金を出して買え」 「アハッ、金なんか無いじゃん」    相変わらず馬鹿げたやり取りだ。考えてみりゃあ俺の人生は学校とバイト先とアパートの三つしかない。特にこれといった趣味がないのが要因だが、高校生としてこれで良いのだろうか。例のごとく太助の馬鹿はいるし、雑誌コーナーでは一弥もエロ本読んでる。  窓の外はごうごうと吹きずさむ嵐の世界。無機質な暗黒だけが支配している。天気予報じゃ今夜は酷い嵐になるらしい。  しかしそれは新たなる季節の到来を意味するもの。風が吹き荒れ、空気をかき混ぜることで、次の季節を招いてくれる。風が吹き荒れる毎に桜の蕾も膨らんで、やがてくる春を予感させる。 「ハァ、優しい彼女がいれば、おいらにも春が来るのに」 「俺様に付きまとう時点で、おめーの季節は万年氷河期だ」 「春菜はいいなぁ、春が来て」  太助は俺様の台詞など聞く耳を持たない。夢見心地で呟くだけ。 「あん? 春菜が春?」  呆れて訊ねた。 「春菜と春ってダジャレだね」 「……おめーが言ったんだべ」  てめーの脳ミソは石ころか、ギャグじゃねーんだぞ。実際こいつ、いつもよりも浮き足たってやがる。普段からお調子者だが、益々調子付いてる。 「じゃなくてよ、春菜は堀田と付き合うことになったのか?」 「うん、そうだよ。春菜『今日は堀田先輩とデートなの』って嬉しそうに言ってたもん」  そしてそれで気付いた。春菜と堀田がうまく行ってるから、太助はこんなに幸せそうなんだと。こいつにとって、周りの幸せは己の幸せ。そういう真っ直ぐな性格が唯一の太助のいいところ。己の損得勘定なんかどうでもいいんだ。とはいえ、そんな性格だからナメられる。調子に乗って他人の不幸を背負わされる。それが災いして、入学した頃ボクシング部に入部した程だ。結局いじめられ、俺様が動くことになったが……
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