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「シュウ、止めておけ」
一弥が言った。
「奴らだってヤクザじゃない。殺しはしないさ」
エロ雑誌に視線を落とし、無表情に吐き捨てる。流石は元ナイトオペラリーダー。非情さは天下一品だ、魔王も形無しの悪魔振り。
「ホント、馬鹿だな太助は……」
俺はその台詞に同調する。まあ実際、仮に太助が捕まって制裁を受けたとしても、数週間入院すればいいレベルで済むだろう。女を助ける術(すべ)も持たず、早まってぶっ込んだ奴が悪い。
だけど肝心なことを忘れてる気がしてた。体中を嫌な悪寒が包み込んでいたんだ。
その時不意に、俺のケータイのバイブが震えた。
「誰だ、おめー」
『……こんばんはです。マリアです……』
相手はマリアだ。どこか騒がしい場所にいるのだろうか、背景からは賑やかな雑音が響く。
「なんだ、なんかあったか?」
『申し訳ないのですが、今日はリキちゃんのお相手は出来そうにないです』
「……そうか……分かった。……なんか用があんだろ? 仕方ねーさ義理は大切だ」
ケータイの向こうで、申し訳なさそうに伝えるマリア。わざわざそんなことで電話してくるなんて、律儀な奴だなって思った。
『そうですよね。義理を欠いては渡世は生きていけない。仲のいい友達の付き合いで、断り切れなかったのです』
だがそのマリアの返答ではっとした。
「友達って誰のことだよ?」
嫌な胸騒ぎを覚えて問い質す。
『えっとですね……『マリアちゃん、ここにいたんだ』……』
しかしそのマリアの声を遮り、誰かが言った。
『ごめんなさい、遅くなるって連絡を……『いいからいこうよ。電話なんか切っちゃってさ……』……ガヂャ……ッーッー……』
そして無情にも通話は途絶えた。
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