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「貴女さえ在ればいいのです。」青年は独り言ちする。無機質な部屋の真ん中あたりに、此方に背を向け床に座り込む彼女と三人の子供たちの姿を見つけた。二人は怪我をしているらしく、彼女の膝に頭を預けている。もう一人はすっかり放心状態で彼女に抱きしめられていた。
「シー・・大丈夫、大丈夫よ。ゆっくりと息を吸って・・そう、いい子。」彼女はいつものように穏やかな声で彼らに言葉をかけて、いつものように優しく子供たちの頭を撫でる。
何処がいつも通りだというのだろうー青年は膝をついて彼女の背中にもたれかかった。甘い髪の香りがするのも暖かいのも、いつも通りだった。そう、彼女は暖かいのだ。
「どうしてもですか?」青年は背中に問いかけた。本当は答えを知っていて、耳を塞いで彼女の言葉を締め出してしまいたかった。それでも問わずにはいられなかった。
「貴方がいいの。他の誰とも知らないものでなく、ただ一人貴方だけがいいの。」穏やかに彼女はそう言い切った。
青年はきつく瞳を閉じた。同じくらいきつく掌を握りしめた。そうでもしないと何もかもが溢れてしまいそうだった。吐き出す息さえ意味を持ちそうで、このまま止めてしまえたらとも思った。
「あぁ、この子やっと眠ってくれたみたい。床じゃ可哀想だけれど・・寝かせるの手伝ってくれる?」振り返らないまま彼女が声をかけると、青年は黙ったまま子供たちを床に横たわらせた。彼女も黙ったままその様子を眺めた。
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