27人が本棚に入れています
本棚に追加
「……って…………は……った…………」
「娘さんの人形は、動いていないじゃありませんか?それに、私に襲いかかってきたし……説明してください!」
「……っ………………った…………」
私の声に耳を傾ける様子もなく、部屋の反対側で壁に向かい何かを呟いているさえりさん。その異常な光景に、私は恐怖していました。
本当は、今すぐにでもここから逃げ出したいのですが、人間とは本当の恐怖に直面した時、動くことが出来ないと聞いたことがありましたが、今がその状態でした。
私は、足が思うように動かず、立ち上がることが出来ませんでした。
「土御門さん。迷斎さんがもうすぐ来るはずです。それまで、何があったのか、話を聞かせてください。」
「……って…………は……った…………」
やはり、何を言って応答はありません。
暗闇と同じように、この異常な光景にも慣れてきたようで、段々と私の足も言うことを聞くようになってきました。
とにかく、一旦ここから逃げ出して、迷斎さんの家へと行こうと思い、ゆっくりと立ち上がることにしました。
ゆっくりゆっくりと、徐々に体を起こし、さえりさんに気付かれない様にと細心の注意を払い、ようやく私は立ち上がることができました。
後は、玄関へと走るだけでしたが、この家の間取りがわからなかったので、目に見える大きな窓へと走ろうとした時です。
「そこから動くな!」
背を向けていたさえりさんが、振り向き様に私に飛びかかって来ました。足にバネでも仕込んでいるかの様にと、五メートルは離れている私のところまで、一気に跳躍して来たのでした。
「…………うぅ……う…………」
先ほどと同様に、私は首を絞められ足が宙に浮きました。必死に抵抗しますが、やはり物凄い力で締め上げるさえりさんの手をほどくことは出来ず、私は再び意識を失いかけたその時です。
バリンっ!!
私が逃げようとした大きな窓のガラスが割れ、キラキラとした破片を撒き散らしながら、『黒い何か』がさえりさんを吹き飛ばしました。
地面に倒れた私は、その『黒い何か』を見上げると、迷斎さんが不敵な笑みを浮かべながら、こう言いました。
「待たせたな、弁天堂。さあ、噺の終演を迎えよう」
最初のコメントを投稿しよう!