弁天堂美咲と泥人形《マッドロイド》03

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弁天堂美咲と泥人形《マッドロイド》03

 さて、先ほどの迷斎さんの嫌味は、紅茶の淹れ方についてで、紅茶とは香りを楽しむものであり、以前、淹れ方を教えてもらったのですが、すっかり忘れてしまいました。  本場イギリスから取り寄せた、茶葉がもったいないだの、カップを温めていないだのと、小言を言われてしまいました。  言いたいだけ言って気がすんだのか、迷斎さんは紅茶を口に運ぶと、窓の外を見ながらポツリと呟きました。  「……そんはそれとして弁天堂。そろそろ、コレクションを増やしたいのだか、何かないか?」  「何か?と言われましても……」  少し間を空けると、「はぁ」とため息をついて、迷斎さんは頬に手を当てつまらなそうに話を続けました。  「だ~か~ら~。何か面白い話はないのか? と聞いているのだよ。まったく、忘れてしまったわけではないよな? 弁天堂?」  迷斎さんは私の恩人であり、その時のことで迷斎さんに多額の借金をしている。しかし、私の名誉のため言い訳をすると、決してお金を借りているとかではなく、私を助けるために失った物の代償としての借りがあるとの意味である。  それ以来、私は迷斎さんの蒐集を手伝うことと、その他雑用をすることでその借りを返しているのであった。  つまり、迷斎さんの言う『何か』とは、蒐集する『怪奇噺』のことである。  「そんなこと言われましても……」  奇々怪々にして、説明のつかない現象や事柄などが、そうそう起こるわけでも話を聞くようなこともなく、平凡な毎日を送る私に求められても正直困るのです。  どうしようかと思っていると、突然来訪を知らせるインターホンの音が響き渡りました。  ピンポーン!  迷斎さんの命により、玄関の扉を開けると、一人の女性が立っていました。  「…………」  無表情だが、綺麗な顔をした女性は、私の全身を舐め回すかのように、足元から頭へと視線を向けます。 まるで、値踏みしているかのように……。  「あの……どちら様でしょうか?」  「こちらは、黒柳迷斎さんのお宅でしょうか?私は土御門さえりと申します。黒柳さんに……ご相談がありまして……」  どうやら、迷斎さんのお客様のようで、おそらくは迷斎さんの求めていた『何か』が訪れたようです。  私は、さえりさんを迷斎さんのいる部屋へと案内しました。
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