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「初めまして、奥様。私は黒柳迷斎。漆黒の『黒』に幽霊柳の『柳』混迷の『迷』と斎日の『斎』で黒柳迷斎。失礼ですが、お名前は?」
芝居がかった迷斎さんの自己紹介。私は何度か聞いたことのあるで何も思いませんが、初めて聞く人は呆気に取られるのですが、さえりさんは表情を変えることなく、迷斎さんに続き自己紹介を始めました。
「私は土御門さえりと申します。漢字は――」
「いえ、それ以上はけっこうです。それより……何かご相談があるのではありませんか? よろしければ、お話いただけませんか?」
相変わらずの自己中心的であり、傍若無人な振舞いの迷斎さん。
私は「失礼します」と二つの意味でお声がけをし、土御門さんへ紅茶をお出ししました。
土御門さえりさん。
旦那さんは、某外資系企業に務める重役だそうで、海外出張などで家を空けることが多いそうです。
趣味は人形作り。それも、人形だけに留まらず、洋服など裁縫全般が得意なそうです。
先月、この街に引っ越して来たそうで、私と同い年の娘さんがいらっしゃったそうですが、引っ越して間もなく娘さんを交通事故で亡くしたそうで、迷斎さんへの相談もその娘さんのことでした。
生前、親子と言うよりも、姉妹のように仲の良かったさえりさんと娘さん。娘さんを亡くした悲しみは深く、家に一人でいる寂しさもあり、少しでもそんな気持ちを和らげようと、娘さんにそっくりの等身大の人形を作ったそうです。
その人形が夜な夜な家の中を徘徊するようになった。最近では、徘徊するだけでなく暴れるようになり、困り果てているようで、何とかしてほしいと迷斎さんを訪ねて来たのでした。
「なるほど、事情はわかりましたが、些か気になることがあるのですが、よろしいですか?」
土御門さんは、声を発する変わりに、首を縦に振りました。
「娘さんにそっくりの人形を作ったからと言って、動き出すなんて話は聞いたことがない。仮にそれが本当なら、世界中の手作り人形が動き出してしまう。現実は、そんなメルヘンな世界じゃない。何か隠していますよね?」
そう言って、濁った目で土御門さんを見つめる迷斎さん。まるで、すべてを知っているかのようなその目は、土御門さんの口を開くにはあまりにも容易かった。
「すべて、お見通しなのですね」
そう言って、土御門さんは隠していたことを打ち合けたのでした。
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