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××中学テニス部の合宿で、俺はある合宿所に泊まっていた。この年頃の男子が夜中に集まればどんなにうるさいかは今さら書く必要はないだろう。それでも昼のシゴキの影響もあって、一人、また一人と脱落していき、深夜には全員眠ってしまった。
俺もいつの間にか眠っていたようだ。だが、慣れない環境のせいか、夜が明ける前に目を覚ましてしまった。なんだかもう眠れる気はしない。俺は今日の天気が気になって、空の様子を見ようとした。
俺はそっと起き上がった。並べられた布団と、荷物と、脱ぎ捨てられたジャージなんかで古い畳が見えないほどだ。適当に並べられたマグロか丸太のように横たわる仲間を踏まないように注意して、部屋の端にむかって歩き始め、そして注意していたにもかかわらず、誰かを踏んでしまった。薄暗いので顔ははっきり見えないが、布団の場所からして、ここに寝ていたのは卓也(たくや)のはずだ。
(すまん、卓也!)
俺は慌てて足を引っ込めようとした。
が、足首が動かない。卓也が両手で俺の足首をつかんでいる。
(寝ぼけてるのか?)
俺は手を蹴り放そうとした。だがつかむ力はますます強くなってくる。もう冗談にしても笑えないレベルだ。こいつ、ここまでしつこくイタズラする奴だっけ?
「おい、卓也痛てえって!」
食い込んでくる指に、俺がとうとう声をあげたのと、部屋のドアが開くのと同時だった。
「何やってんだ清人(きよと)」
廊下の弱いオレンジ色の光を背に立っていたのは、卓也だった。
「え?」
じゃあ、今俺の足をつかんでいるのは?
その途端、足が自由になる。下を見てみても、誰もいない布団が広がっているだけだ。
背中に寒気が走り、俺は震えあがった。
卓也がドアを閉めた。闇が体を包む。ついさっき得体の知れない体験をした俺は、その闇に耐えられずに、壁のスイッチをつけた。
明るくなって眠りを妨げられた奴らの恨めし気な呻きがあちこちで上がる。
俺はかまわずに部屋を見回し、一人一人の顔を確認した。まぎれている見知らぬ者も、いつの間にかいなくなった者もいなかった。
あれは誰かのいたずらだ。俺はそう思い込もうとした。たぶん、他の誰かが卓也の布団で奴のフリをしていたのだろう。そして俺が明かりをつけたときには、転がって自分の布団に戻っていたのだ。
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