第1章

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けれど、しばらくしてそんな淡い期待は消えうせた。足首にくっきりと浮かび上がってきた赤黒い手の跡。どう見ても手の主は薬指に指輪をはめていた。  もちろん、俺らの中でそんな気の利いたものをはめている奴はいない。 あとで先輩から聞いたことだが、そこの合宿所は昔どこかの会社の保養所だったらしい。で、ある年女性社員が服毒自殺をしたという。意図がいない時間を見計らっての事で、だいぶ一人で苦しんだようだ。遺体は毛布をきつく握りしめていたらしい。  俺は、その夜の事を誰にも言わなかった。どうせ昼には帰る予定だったし、ビビりとか自作自演とか言われたら嫌だからだ。そして何より、その日の朝、卓也が言った言葉が原因だ。  卓也はやたら嬉しそうにニヤニヤしてこう言った。 「あの時、俺はトイレに行ってたんだけどさ。その前に、ヤバい夢をみちゃったんだよ。スーツを着た美女が、俺の布団に入ってきたんだ!」  多分それは夢じゃないし、その美女の正体も見当がついた。 だけど、せっかく卓也が喜んでいるのに、水を差さないほうがいいだろう。  
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