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闇に包まれた街路が一瞬赤く照らされ、再び闇に包まれたとき
俺は全身をプロテクターに包んだ姿へ変身していた。
「間に合え……!」
右手のグリップをひねりあげ、エンジンの回転をあげる。
機械の赤兎馬を駆り、俺はハイウェイを目指した――。
・・・
「――申シ訳アリマセン、隊長。一人逃ガシマシタ」
先ほどまでなんの感慨もなく報告していた戦闘員が、いまや無念さを漂わせている。
この個体はたった今新鮮なエモーショナル・データを吸い取り、
初歩的な自我を獲得したのだ。
「まったく、ばか者め。あの娘こそ、逃がしてはならんと言っただろう」
言葉ではなじる隊長格フェイスも、その実気をよくしていることがよくわかる。
長年煮え湯を飲まされてきた相手が、抜け殻と化して倒れているからだろう。
他のフェイスたちが捜索のため部隊をわけている中、
オレはその抜け殻の側にたたずんでいた。
雷久保番能。雷久保咲夜。フェイスダウンから脱走し、粛清された男女。
誰も彼らを気にかけない。もはや搾りつくされた人間など、どうでもいいのだ。
だが俺は無性に気になった。資料の中では動いていた彼らが、
今や口を開け目を虚ろにしてピクリとも動かない。
番能は、やせこけた頬にいかつい目つきながら、妻にだけは優しく語り掛けていた。
咲夜はそんな夫に柔らかい笑みを向け、目を細めていた。
今はもう、動かない。
「……」
厳めしい表情も、柔らかい表情も奪われたのだ。――オレたちフェイスに。
動かなくなった二人の代わりに、フェイスが二体、生き生きと動き出した。
奪い取った感情が、彼らに自我を与えたのだ。
――それを思うと、オレの胸になにかがつかえる。
そっ、と二人の顔に手を被せ、目と口を閉じさせる。なぜかはわからないが、
そうするべきだと感じたのだ。
「1182号! おまえは私と来い!」
隊長が声を荒げて呼び寄せる。どうやら雷久保たちはハイウェイを降りて
こちらをまいた一瞬、娘をどこかに降ろして隠したらしい。
二人が乗った車を追いかけている間に娘は逃げただろう。
その少女を捜索する部隊と、彼らを襲うであろうアルカーを迎撃する部隊にわかれるようだ。
当然、オレは迎撃部隊に振り分けられた。
アルカーとの決戦が、近い。
・・・
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