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情などかけるはずもなく、実験生物に向ける視線のそれしかなかった。 娘が二歳になったとき、私たちは脱走した。以来、私たちは定住せず 長い間放浪生活を続けているのだ。 当然、娘も同じ学校にい続けることはできず、一年ごとに転校するありさまだ。 まともな友人をつくることもできず、苦しい逃亡生活にもかかわらず 優しく強い娘に育ってくれたことは、親としては嬉しさも悲しさもある。 脱走の際、奴らから最重要機密である"精霊"を奪い去れたのは幸運だった。 その"精霊"に選ばれたあの時の少年が、今私たちを救うためにこの町に来ている。 それだけが希望だった。 ガシュ。 「――とにかく、彼との合流地点まであとわずかだ。大丈夫、彼――  アルカー・エンガは強いんだ。フェイスよりずっと強い。だから、安心しておくれ」 「……ほんとに、そんな人いるの?」 疑わしげな顔をするのも無理はない。彼女も何度かフェイスに襲われる人々を 見たことがあるのだ。あれを見ては、人間では対抗できない―― ――そう諦観するのも当然だった。 だが、私は彼も知っている。"炎の精霊"に選ばれた男を。 だからそこだけは力強くうなずくことができた。 ガシュ。 「ああ。間違いない。彼なら必ず『私たち』を――助けてくれる。  だから、心配するな」     
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