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急激な温度差
「そういや昨日さ。ビン、煮とったよな」
「ん? ああ。ようけイチゴもらったからね。傷まん間にジャムにしとこうと思って、保存用のビン、煮沸してたの。カビ生えたりするらしいからね、煮沸消毒、横着すると」
「あー、ジャム作っとったんか。台所、甘い匂いがすると思ったら」
「スコーンでも買って帰ろうかな。ここの地下街で、確か売っとったよな、スコーン。……あ、あんたのコーヒー来たみたいよ」
「うん。……いや、そんでさ。あの、鍋で煮てたビンって、耐熱性のやつなん? あれ、百均で買ったとか言っとらんかったっけ。耐熱ガラスの保存瓶とか、百均にあんの?」
「いや。あれは、耐熱じゃないけど」
「えー? 耐熱じゃないガラスビン、あんなふうに煮て大丈夫なん? 割れたりせんの?」
「ん。えーっとね。ビンの煮沸は……あ、キャラメルナッツの、来たよ」
「お、うまそ」
「ビンの煮沸はね、水に入れて、火にかけんの。ビンを水から煮てくわけよ。熱湯の中にいきなりガラスのビン入れたら、そりゃ割れるから。でも、水といっしょにちょっとずつ、ゆっくり温度上げてきゃあ、大丈夫」
「へえ。……つまり、急激な温度差で割れるってこと?」
「そゆこと」
「ほお、そうか。なるほど。――疑問が解けた」
納得した私は、キャラメルナッツのかき氷にスプーンを入れた。
キャラメルソースとアーモンドダイスがたっぷりかかったふわふわの氷を、こんもりとすくって、口いっぱいに頬張る。
甘い氷を口の中で溶かして飲み込んで、それから私は、まだ湯気の立つコーヒーをすすった。
かき氷で冷たくなった歯が、コーヒーの熱でパキン、とヒビ割れ、そのヒビはまたたく間にアゴ全体へと広がり、首が砕け、私の頭はガシャン、と音を立ててテーブルに落ちた。
【終】
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