135人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「これは拓海ジュニアです」
愛しげに人形を横抱きにし
拓海は夢見るように言った。
「お腹の子はお兄様夫婦に差し上げると言ったものね。淋しいけどさ」
僕らがここまで
必死で守り抜いていた秘密を
「けど、最初からそういう約束だったんだから仕方ない」
「……約束?」
「ええ、お父様――貴恵さんと約束したんです。天宮の跡取りを作って差し上げるって」
子供みたいにあっけらかんと暴露して。
「大丈夫。僕はこの子で我慢するから」
静まり返る辺りに
子供をあやす拓海の異様な声だけが聞こえる。
「何言ってるの……?」
この期に及んで
まだ救われる道があると思ったか。
性悪女王め
聞き返したりするもんだから――。
「何って――貴恵さん言ったでしょ?種なんか兄のでも弟のでも構わないって」
完璧に墓穴を掘る。
「あの……それは……つまり……」
つわりがぶり返したみたいだ。
吐き気を催すと両手で口元を抑えたまま
貴恵は慌てて部屋を飛び出していった。
最初のコメントを投稿しよう!