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7、ついてくる
先祖代々の墓は、裏山の入り口にある。
ほんの少し前までは土葬だった。火葬をするようになった今でこそきちんとした墓石を立てるようになったが、昔からの墓は土饅頭、つまり、土がこんもり盛り上げられ、申し訳程度に小石が積んであったりするものもある。ゆえに、ぱっと見ではそこが墓なのか、土なのかも分からないことが多い。
新盆には、道に沿って立てた燭台に蝋燭を灯し、家から墓までの道筋を示す風習がある。まだ死んで間もない霊が、家までの道を間違えないようにということであった。
迎え盆は、墓まで行き、その墓の前で提灯に火を入れる。そしてそれを掲げながら家へと帰る。その際に、道の蝋燭は一本ずつ消していく。家に戻った祖霊に、少しでも長く家にいてもらうためである。
薄紫に沈む夕暮れ。その中にゆらゆらと漂う蝋燭の明かりは、幼心にも随分と綺麗に映ったものだ。
さて。
祖父が死んで初めての盆も、もう終わりというときであった。
送り盆である。
盆棚はもう片づけられ、提灯に火を入れて、皆で墓に向かっていた。先祖の霊を墓まで案内するのである。道は、迎え盆と同じように蝋燭が灯されている。
送り盆の際は、歩きながら、しんがりの者が蝋燭を消していくのが習わしであった。祖霊が墓から戻って来られないように。墓から家までの道が分からなくなるように。手でそっと仰ぎ、炎を消すのだ。
親戚一同が列になって、ゆっくりと山へと向かっていく。その、一番後ろを歩いていた叔父が、おい、と素っ頓狂な声を上げた。
振り返ると、煌々と、蝋燭が灯っているのである。
おかしい。
叔父が、消し消し歩いていたはずではなかったか。
声無き問いを掛けられた叔父は、目を見開き、無言のまま首を振った。
「じいちゃん、けぇりたくねえんかいなあ」
祖母がぽそりと呟いた。
明るく輝く火の揺らめきを、しばし奇妙な感慨に捕らわれながら。
わたしは、眺めていた。
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