朱の与奪

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 彼女の膝の裏が左腕に、首が右腕に触れた瞬間、僕は僕の感覚と関節を総動員して、彼女を受け止めた。  息が漏れる。  知らない間に目を瞑っていた。  目を開けて彼女を探す。  紅い唇。  違う。  血。  嘘だ。  そんな。  僕は焦る。  凝固剤を…。  早く凝固剤を!  永遠に溢れ出る。  彼女の薬指からだ。  それは滴り落ちて、彼女の指に纏わりつく。  真っ赤なルビー、砂漠の花。何を考えているんだ。 「大丈夫、落ち着いて。凝固剤と包帯を」 「ねえ、聞こえてるの?」 「ねえ、早く降ろして凝固剤と包帯を取って」  空白。  そして右の頬に風と圧力。  僕は砂漠に引き戻される。 「ごめん、凝固剤はどこ?」 「あなたの真下の袋。ねえ、まずは私を降ろして」  僕はすぐに動き出す。  彼女をそっと降ろし、荷物を取り出し、彼女に凝固剤を打った。  包帯を巻く。 「今日はここで寝ましょう」 「わかった、準備するよ」  彼女がもう怪我をしないように寝床を作る、それだけに集中する。  だんだん明るくなってきた。  生まれて初めての朝日だ。  目が痛いし、あの星がこの先の僕らの行く手を阻むと思うと恨めしい。 「そうだ、名前を教えてあげる」 「君と僕しかいないよ?」 「知りたくないの?」 「いや、教えて」 「それに二人じゃない。ここは砂漠で、太陽もいるわ」  僕は待つ。     
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