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でも、その時私を穏やかな声でたしなめるものがいました。
姿は見えません。ですが、声ははっきりと聞こえました。それは少しハスキーな女性の声でした。
「お前の都合で苦しみを伸ばす気か。もう自由にさせてあげなさい」
その言葉で私はハッとしました。
危篤の今、母に仕事があることも、東京で学生をしている弟のことも、全部祖父には関係のないことです。
死に目に会いたいという、自分たちの都合ばかりを押し付け、祈っていたのです。
いえ、きっと祖父も娘である母に会いたいと思ってくれていたとは思うのですが、もう祖父の体力は限界だったのでしょう。
「もう十分です。解放してあげなさい」
その声に従い、おじいちゃんに問いかけてみました。
「おじいちゃん、もういくの?」
すると、帰ってきた答えは。
「おじいちゃん、もう疲れちゃった」
という、元気だった頃と同じ、冗談交じりのお茶目な言い方をした祖父の声でした
寝たきりになって肺炎を起こしていたおじいちゃん。きっと息をするのも苦しかったのでしょう。
もうこれ以上苦しむのは、おじいちゃんは望んでいなかった。
「そっか、お疲れ様、おじいちゃん。バイバイ」
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