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「夢は冷めるものだ。あれだって夢だった」
吉原は夕日を反射する国道の案内表示板を指した。右に行けば東京電力第一原子力発電所とある。
「そうなのか?」
千坂は原子力発電などというものを考えた事はなかった。それが夢だったと言われてもピンとこない。
「原発は火力発電と違って、排気ガスや燃えカスを出さないクリーンな発電所だと説明された。田舎には雇用が生まれ、補助金が交付されて豊かになった。ここで作られた電気は東京に送られる」
「いいことずくめじゃないか」
「核燃料も使えばゴミになる。今では年間1千トンの核のゴミが出来ている」
「騙されたんだな」
「いや。原発に関わる連中は、それがゴミじゃないという。リサイクルすればまた燃料に戻るのだと。それが核燃料サイクルで、そのために中間処理場や高速増殖炉がつくられた。稼働しているとは言えないけどな」
吉原はよく勉強していて世の中を批判的に見ている。それがぼんやりしている自分との違いで、就職できなかった理由ではないかと千坂は考えた。
「ふーん」
気のない返事をすると「停めてくれ。もうじき僕の家だ。運転を代わろう」と吉原が言った。
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