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「初めまして。兄がお世話になっています」
汐織が顔を見せる。こたつにプラスチックのトレーを置くと正座をして両手をついた。
「こちらこそ。突然お邪魔してすみません」
千坂も座り直して頭を下げた。挨拶をしながら汐織の姿を観察する。化粧気がなくゆで卵のようなすべすべした白い顔に小さな鼻と濃いピンク色の唇がついていた。髪は黒く首元でさらさらと揺れている。顔は美形とは言えないが、何故か胸が、きゅんと痛んだ。
「いえ、兄からメールは貰っていましたから。両親は店に出ているので、何もおもてなしは出来ませんが」
高校を卒業したばかりだというのに汐織がしっかりしているのに驚いた。
「なっ。しっかり者だろ。僕の妹とは思えないよ」
千坂は思わずうなずく。
「兄がダメだと妹がしっかりするんです」
千坂の前に出されたコーヒは、深く豊かな匂いを放っていた。
「インスタントですが」
「へぇー。インスタントでも、こんな香りが出るんですね」
千坂が素直な気持ちを言うと、汐織が「ええ」とほほ笑んだ。
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