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夜はビールとテーブル一杯の料理が並んだ。
「ほとんど母が作ったものです。私は温めただけですから」
汐織が千坂のグラスにビールを注ぐ。
「いや、立派なものだよ」
酔った千坂は、自分で何を言っているのか分からないまま、汐織が注ぐビールを愛情か何かのように感じて飲んだ。
「世間とずれている兄はこの体たらくだが、妹は世間の荒波をしっかり泳げる女だ」
吉原も酔っていた。ビール瓶を持つと「汐織も飲め」と勧める。
「私は未成年ですよ」
「ほうら、酒を断るのもうまい」
その姿は、どちらかといえば暗い印象を与える吉原の様子と異なっていた。
「冬馬、なにか吹っ切れたようだな」千坂がいう。
「いや。せめて妹には幸せになってもらいたい」
「温かい兄妹愛だな……」
「亮治、勘違いするなよ。俺たちは普通の兄妹だ。なぁ、汐織」
「はい。千坂さん、兄が酔っぱらって、すみません」
汐織が苦笑する。
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