帰郷

7/10
前へ
/24ページ
次へ
「亮治、汐織と結婚しないか?」 「えっ?」千坂と汐織が目を点にした。 「僕はお前が汐織の相手なら安心だ。詩織、亮治はぼーっとしているが商社に就職した勝ち組だ。きっとお前を幸せにしてくれる」 「兄さん、突然何を言うのよ。千坂さんが困っているわよ」 「亮治に恋人がいないのは、知っているんだ。こいつ、ぼーっとしていて女に声もかけられない」 「女に縁がないのは、冬馬も同じだろ」 苦笑しながら、汐織なら良い妻になるだろうと思う。 「商社なんて世界中を飛び回るのでしょ。私はこんな田舎育ちだから無理です」 「馬鹿だな。何事もやって見なけりゃわからないだろう。……兄ちゃんみたいに失敗することもあるけどなぁ……」 吉原は目を細めると、目尻からわずかばかりの涙をこぼした。 「もう一度、就活したらどうなんだ」 千坂は慰めたつもりだった。 「お前、どこまでぼーっとしているんだ。今年ダメなものが、来年上手くいくわけないだろう。日本は、そういう国だ」 吉原は咬みつくように言うと、その場でごろんと横になった。 「千坂さん、ごめんなさい。兄、酔っているんです」 汐織が吉原の母親のように見えた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加