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「亮治、汐織と結婚しないか?」
「えっ?」千坂と汐織が目を点にした。
「僕はお前が汐織の相手なら安心だ。詩織、亮治はぼーっとしているが商社に就職した勝ち組だ。きっとお前を幸せにしてくれる」
「兄さん、突然何を言うのよ。千坂さんが困っているわよ」
「亮治に恋人がいないのは、知っているんだ。こいつ、ぼーっとしていて女に声もかけられない」
「女に縁がないのは、冬馬も同じだろ」
苦笑しながら、汐織なら良い妻になるだろうと思う。
「商社なんて世界中を飛び回るのでしょ。私はこんな田舎育ちだから無理です」
「馬鹿だな。何事もやって見なけりゃわからないだろう。……兄ちゃんみたいに失敗することもあるけどなぁ……」
吉原は目を細めると、目尻からわずかばかりの涙をこぼした。
「もう一度、就活したらどうなんだ」
千坂は慰めたつもりだった。
「お前、どこまでぼーっとしているんだ。今年ダメなものが、来年上手くいくわけないだろう。日本は、そういう国だ」
吉原は咬みつくように言うと、その場でごろんと横になった。
「千坂さん、ごめんなさい。兄、酔っているんです」
汐織が吉原の母親のように見えた。
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