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「日本は可笑しいんだ。僕みたいにバイトばかりしていた学生が就職できて、お兄さんみたいに真面目に勉強をしてきた男が採用されなかった。本来なら、お兄さんが採用されるべきなのに」
「兄をかばっていただいて……、ありがとうございます。でも、これが現実なんです」
「強いんだね」
「こんな田舎にいたら、辛抱と諦めしか身に付きません」
「夢はないの?」
「一度、東京に出てみたかったです」
「これからだって、チャンスはあるよ」
「兄を見たら、無理だと思いました」
寝顔に眼を落とす。その顔は悪夢を見ているのか、苦痛にゆがんでいた。
「怖い?」
「そういうのではないと思います。うまく表現できません」
「比較したら、生まれ育ったここが良いということかな?」
「ここも嫌ですね」
千坂は言葉に窮した。
「水、もらえるかな」
1人になるために、そう頼んだ。
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