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「寒くないですか?」
千坂の前に水を置いて汐織が聞いた。
「大丈夫だよ」
「もうすぐお風呂が沸きます。……あのう、これからも兄の友達でいてください」
「あ、うん……」
何もかも汐織に先を越されているような気がした。
「汐織さんをお兄さんが自慢するのが分ったよ」
「他人には自慢するのに、2人になると私をブスって呼ぶんですよ」
「照れているんだよ」
「照れるって、兄妹ですよ」
「それでも照れるものなんだよ」
「千坂さん、兄弟は?」
「兄がいるんだけど、もう20年は会っていないなぁ。生きているのか死んでいるのかさえ分からない」
「私、いけないこと聞いちゃいましたね」
「いや……。小さいころ両親を事故で無くしてね。兄は父方の親戚が引き取り、僕は母方の親戚に引き取られた。そうなると、兄弟でも会う機会がないんだ」
「寂しいですね」
「うーん。どうだろう……。もう、寂しいなんていうのも、忘れちゃったな」
「あのう。兄の言ったことは気にしないでくださいね」
「えっ?」
「私とのことです……」
汐織は恥ずかしそうにうつむいた。その姿に、妹と結婚してもらえたら安心だと言った吉原の言葉を思い出し、千坂の胸が高鳴った。
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