貸した漫画

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 カラオケやドライブにふたりきりで行くのに、デートらしい素振りはまったく見せず、私の気持ちだけが空回りしている感覚はあった。  なにも用事がないのに朝になると「おはよう」とか、中身なんてないのにちゃんと返信してくれたり、私に好意があるのかないのかどっちつかずなときもあった。  そのくせデートの誘いはいつも私から、でも車は出してくれるし、彼はどんな気持ちで私の誘いを受け、一緒の時間を過ごしてくれていたのだろう。  〝好きでもない女とそこまでデートするかね〟  私だって判らなかった。  〝好意はあるけど恋人関係とまでは意識できていないか、ただのストックとして置いておきたいかのどちらかだね〟  後者はどうしても避けたかった。  〝それか、恋愛のイロハも判らんただの童貞〟  私の想いに気がつきつつ、それを翻弄して楽しんでいる遊び人なのか、右も左も判らないままぼんやりとしている関係のまま漂っている未経験男なのか。  実際、彼は童貞だった。  それが発覚するまで、私は四ヶ月も悩まされてしまった。  私はそれとなく、でも判りやすいアプローチはしてきたつもりだった。  彼を見ていると、高校時代に付き合っていた先輩を思い出す。  一緒にいてくれるだけで楽しかったし幸せだったけれど、一緒にいるということだけしかしてくれなかった先輩。     
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