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東京にイキタイ
親友の倫子から電話があった。スマホはおろか、ガラケーさえ持ってない。
倫子は4月から東京にある大学に行く。
コッチは派遣で仕事をはじめた。
ボーナスも退職金もない。チッ!思わず舌打ちする。
《LINEはじめたんだ、イエ電のアンタには関係ないか?》
「イエ電は金がかからないからさ?」
《LINEは無料だよ?Wi-Fiは便利だよ~?》
「ワイワイ?なんか楽しそうだね~?」
《は~、悲しくなるなぁ?それより、アンタ恵介君のこと好きなんだよね?》
「何で知ってるの!?」
声が大きかったようだ。
バアちゃんと同居してんだけど、8時には寝ちゃうんだ。まだ、8時半だってのに。
「うるさいね~?静かにしとくれよ~」
「ゴメン!」
《何でゴメンなの?謝ることないじゃん?》
「違う違う、コッチのハナシ」
《あっ、そう?まっ、アンタの行動は分かりやすいからね~?よかったらカレの番号教えてあげよっか?タダじゃないよ?アンタの畑の野菜よこして?独り暮らしは何かと大変だからさ~?》
ウチは昔から農園をやってるんだ。
「マジで~?命の恩人だよ~!」
「アンタなんかの病気だったの?」
「アハハッ、恋の病気」
これで大出君に近づける!(^-^)
永作は鳥取を訪れていた。
モデルを探している。永作の本業は脚本家だが、カメラマンも兼業している。
最近、事務所に新しいタレントが入った。
敬語もろくに使えないゆとり野郎だ。
彼も鳥取出身だ。
昨夜は城崎温泉に行った。垂れ柳が川沿いを飾り、志賀直哉や与謝野晶子の文学碑が点在する。
カニ漁が盛んらしく冬場はカニを売るオバチャンたちが風物詩になるらしい。
コウノトリが足の傷を癒したってゆー伝説も残っている。家内安全の地蔵湯、安産祈願の柳湯、開運招福の一の湯、『暗夜行路』に登場する御所の湯など数多くの温泉があった。
宵闇の鳥取城跡を眺めていた。朧月がノスタルジックに浮かんでいる。
山名氏の居城だったが秀吉の兵糧攻めにあって滅んでからは羽柴のモノになった。
秀吉の死後は池田輝政の居城となった。
橋の向こうから女がやって来る。
日本人形みたいだ。よし、彼女に決めた!
収録を終えて恵介は表参道駅近くにあるマンションに戻った。スマホを見ると留守録が残されていた。再生する。
《あっ、大出君?ワタシ、松下》
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