0人が本棚に入れています
本棚に追加
《うさぎ追いしかの山~♪》
高校の卒業式、体育館に『ふるさと』が流れる。
ワタシは第2ボタンをもらうこともなかったし、卒業間際のラブストーリーなんてものもなかった。
父親がギャンブル依存症で金がなかった。
学費を払うのが精一杯で、友達とカラオケに行くなど出来なかった。
それでも、憧れていた人はいた。
同じクラスの大出恵介君って超イケメン、俳優になるのが夢らしくshadowって芸能プロと契約するくらいだ。
文化祭のときに1度大出君にアタックしてみたんだ?『今度カラオケに行かない?』
『なんでおまえなんかと?』
最低な返事だった。
家に帰って尾崎豊の『卒業』を聴いた。
トイレはポットン便所だ。こんな家じゃ大出君を呼ぶわけにはいかない。
風がキモチイイ!散歩でもしようかな?
金があまりないからさ?ミネラルウォーターなんか買うわけにいかず、水道水を水筒に入れて持っていく。
スターバックスコーヒーが飲みたいがガマンした。見るだけなら金がかからない。
最近、鳥取駅の裏手に出来た。
クソッ!侘しいなぁ?
ファミリーマートに入りファミチキを買った。
夕食はこれだけだ。
金色の髪を輝かせた少女が立ち読みをしている。
『ザ・テレビジョン』を読んでいる。
雑誌も何年も買ったことがない。
「あれ?洋子じゃない?」
「うわっ!菜々子!?相変わらずダサそうな服着てるわね?ダサそうじゃなくて、ダ・サ・いか」
幼馴染みの洋子だ。
昔はこんなヤツじゃなかった。
野原でカケッコしたりした。
ワタシの名前は松下菜々子…………あの大女優に似ているって言われるが、似ているのは名前だけだ。
「何なのよ!?バカにしないで!?」
「事実を言ったまでじゃない?あっ、ミスコンに受かったんだ?アンタには関係ないけどね?貧乏がうつるから近づかないで?シッシッ」
ハエのような扱いだ。
ワタシはハエ女じゃないわよ!
森高千里の『ハエ男』が頭の中を駆け巡る。
洋子は高級店で買ったと思われる深紅のドレスを着ていた。対するワタシは古着屋で買った灰色のトレーナーだ。
「今夜は舞踏会ですのよ?オホホホッ」
レジの女に嫌味ったらしく話しかけている。
「いいですねぇ?ワタシも出てみたいわ?」
「貴方なんて100万年立っても出られやしないわよ?搾取されてよくもヘラヘラしてられるわね?かっわいそー、ヒャヒャヒャ」
最初のコメントを投稿しよう!