卒業

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《うさぎ追いしかの山~♪》  高校の卒業式、体育館に『ふるさと』が流れる。  ワタシは第2ボタンをもらうこともなかったし、卒業間際のラブストーリーなんてものもなかった。  父親がギャンブル依存症で金がなかった。  学費を払うのが精一杯で、友達とカラオケに行くなど出来なかった。  それでも、憧れていた人はいた。  同じクラスの大出恵介君って超イケメン、俳優になるのが夢らしくshadowって芸能プロと契約するくらいだ。  文化祭のときに1度大出君にアタックしてみたんだ?『今度カラオケに行かない?』 『なんでおまえなんかと?』  最低な返事だった。  家に帰って尾崎豊の『卒業』を聴いた。  トイレはポットン便所だ。こんな家じゃ大出君を呼ぶわけにはいかない。  風がキモチイイ!散歩でもしようかな?  金があまりないからさ?ミネラルウォーターなんか買うわけにいかず、水道水を水筒に入れて持っていく。  スターバックスコーヒーが飲みたいがガマンした。見るだけなら金がかからない。  最近、鳥取駅の裏手に出来た。  クソッ!侘しいなぁ?  ファミリーマートに入りファミチキを買った。  夕食はこれだけだ。  金色の髪を輝かせた少女が立ち読みをしている。 『ザ・テレビジョン』を読んでいる。  雑誌も何年も買ったことがない。 「あれ?洋子じゃない?」 「うわっ!菜々子!?相変わらずダサそうな服着てるわね?ダサそうじゃなくて、ダ・サ・いか」  幼馴染みの洋子だ。  昔はこんなヤツじゃなかった。  野原でカケッコしたりした。  ワタシの名前は松下菜々子…………あの大女優に似ているって言われるが、似ているのは名前だけだ。 「何なのよ!?バカにしないで!?」 「事実を言ったまでじゃない?あっ、ミスコンに受かったんだ?アンタには関係ないけどね?貧乏がうつるから近づかないで?シッシッ」  ハエのような扱いだ。  ワタシはハエ女じゃないわよ!  森高千里の『ハエ男』が頭の中を駆け巡る。  洋子は高級店で買ったと思われる深紅のドレスを着ていた。対するワタシは古着屋で買った灰色のトレーナーだ。 「今夜は舞踏会ですのよ?オホホホッ」  レジの女に嫌味ったらしく話しかけている。 「いいですねぇ?ワタシも出てみたいわ?」 「貴方なんて100万年立っても出られやしないわよ?搾取されてよくもヘラヘラしてられるわね?かっわいそー、ヒャヒャヒャ」
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