1.僕

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「ちょっと涼んでくる」 来なくなっていたこの四年間の、僕の学生生活についてじいちゃんは興味津々で耳を傾けてくれた。 気がつくと、あたりは夕焼け色が段々と闇に染まりつつあった。ドがつくほどの田舎は僕の暮らしている街とは違い、人工的な明るさに乏しいため、実際いつも感じる時間よりももっと遅い時間帯に感じる。 蜩(ひぐらし)のカナカナカナという声が聞こえる。 「おうそうか。行ってこい」 「うん」 僕は海へ向かった。 じいちゃんちの裏手の、人ひとりやっと通れる幅の小さな道。草が生い茂っていて、道になっていることを知っている人間はほとんどいない。だから子供の頃は秘密基地のような気持ちでここを通った。 二分も経たないうちに出る。 人もいない、まるでプライベートビーチ。 波は台風の時期以外は穏やか。だけど遊泳はできない。 太陽が沈むのをじっと静かに見つめるのが子供の頃の夏の日課だった。 今日も違わず、砂浜に腰を下ろして太陽がゆっくりと沈んでいく様を見つめる。 子供の頃の僕はこの景色をどんな想いで見つめていたのだろうか。 よくきれいな景色を目の当たりにすると、心が洗われるだとか気持ちが浄化されるだとか言われるけれど。 とてもそんな気持ちにはなれなかった。
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