1.僕

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日が落ちて、じいちゃんから借りていた懐中電灯で前を照らしながら帰ると、すでに客間には食事が用意されていた。 子供の頃好きだったじいちゃん特製の夏野菜カレーと枝豆と。おそらくはすいかも後から出てくるだろう。 都会とは、ウチとは、なにもかもが違うせいか。 僕は、毎年自宅に帰る頃には嫌いな食べ物を少しずつ克服していた。 ピーマンもトマトも“なすび”(地元では茄子はなすと呼ぶけれど、じいちゃんがそう呼ぶから僕もそう呼んでる)もじいちゃんの作るカレーに入ってるのを食べたことがきっかけだ。 食事を済ませ、思っていた通りすいかが出てきた。冷蔵庫ではなく、井戸につけていたんだろう。冷えすぎていないそれはしっかりと甘みを感じる。 そして、イマドキの若者は経験したことないであろう五右衛門風呂に入らせてもらう。 内風呂もちゃんとあるし、薪を準備したりは大変だから普段はそっちに入っているはずなんだ。 だけどこうやって昔と変わらず僕のためにしてくれる。ありがたい。 五右衛門風呂のふちに体が当たらないように気をつけながら、満天の空を眺める。 火に焼(く)べられた薪がパチパチと音を立てている。 アオバズクのホーホーと鳴く声に静かに耳を傾けていると、じいちゃんは火の番をしながら、「彼女が出来たら連れてこいよ」と唐突に言い出した。 「……うん」 今夜じいちゃんにきいてほしいと思ったことがあって、ここまでやってきたのだけれど。 やっぱり言えそうもないな。
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