失恋人魚

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私は、夕焼けの砂浜を一人たたずんでいた。 この波が、彼との思い出も一緒に連れてってくれたらいいのに。 そう期待して、ここに失恋旅行にきていた。 「お兄ちゃん、待ってよ」 私の前を横切る兄に向かって、妹が後ろから歩き疲れた感じでゆっくりと追いかけている。 「お姉ちゃんは、ここで何してるの?」 私の前までたどり着いた妹が、ふと私に話しかけてきた。 私は失恋旅行とも言えず、海が見たかったのと答えた。 「お姉ちゃんはどこから来たの?」 「海の向こう側からだよ」 私はフェリーに乗ってここまで来たので、自分の家がある方角を指差した。 「お姉ちゃんすごい、もしかして泳いで来たの?もしかして人魚姫?」 人魚姫か…… だったらよかったのだけど。 「そうかもね」 この子の想像を壊したくないと思い、冗談で答えた。 「お姉ちゃん、すごいね」 そう言って、私の顔をマジマジと見つめた。 私もこんな頃があったのだな。 こんなに純粋な頃に戻れたら…… 「おい、先に帰るぞ」 「待ってよ、お兄ちゃん」 「人魚姫さん、バイバイ」 そう言って妹は、兄を追いかけて行った。 失恋した人魚姫か…… それもいいかも。 あんなに小さなこの子の笑顔に救われるなんて。 笑顔か…… 忘れかけていたな。
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